「あの、矢吹くんはお父さんが嫌いなの?」


「………」


その質問をぶつけるいなや、矢吹くんの丸みのおびた鮮やかなエメラルドグリーンの瞳が一瞬睨みを向けられたかのように見えた。


「大嫌いだよ…あんなの」


(大嫌い…あんなの?)


お父さんに向けてそんな言い方おかしいと思いたいけど、矢吹くんに受けた待遇があまりにも可哀想で何も言える事がなかった。


矢吹くんは続けて低い口調で言葉を発した。


「俺ね、父親から何かしてもらった事も何かをくれた事もなかった。家族と出掛けるなんてもってのほかで、あの人は俺をいたぶり傷付ければそれでいい人なんだ。
あの人は人としても最低でクズでどうしようもない人なんだよ」


「………」


「俺はあの人に育てられてる感覚はなくてね、むしろされてないから。どちらかというと母親とじいちゃんに育てられてる気がするんだ。今でもそう……。だから、母さんに置いて行かれた事にはショックだったんだ。
あの日じいちゃんと俺を残して行った事にじいちゃんは怒ってたよ。でもね、母さんは毎月何かをくれてるんだ、多分母さんなりの罪滅ぼしだと思うんだよね」


「それってお金?」


「そう。だって、限りとかあるでしょ」


確かにご老人のお金って限りがあるし、それだけで子供を育てるって結構難しいかもしれない。


何かの制度もあるとか聞いたことあるけど、それでも難しいのだろうか。


「お母さんは今どこにいるか分からないの?」


「知らない、ずっと会ってないから。ただ何かしらやってくれてるのは事実なんだ。じいちゃんとはよく会っていたみたいなんだけどね。でも、俺とは会ってくれなくてね」


「………」


私は矢吹くんが教えてくれるひとつひとつの言葉に私は何も言えずただただ傾けていた。