「はあ……」


「ねえ、人の家に来て溜息つきに来ないでくんない? てか宿題しに来たんでしょ?」


「う、うん。でも、手がつかない。
どうしよう、柚里夏ちゃん」


「言えばいいんじゃない、本人に」


「だよねー」



おじいちゃんは矢吹くんの事情について教えてくれた。


矢吹くんにはご両親がいなくておじいさんの光壱さんしか家族と言える身内がいなかった。


矢吹くんにはご両親と妹と祖父の光壱さんという家族だけど、家族という形はしておらずむしろ仮面を被ったような家族だった。


それ以前に両親が結婚したのは単に矢吹くんが出来たからでほとんど成り行きだったらしく、妹も居るけど妹は実は父親の本妻できた子供で、いわゆる異母兄妹にあたる。


父親は妹に対してはとても可愛がっていたが、矢吹くんに対してはとても酷い仕打ちを受けていて、それはいわゆる虐待というものだったらしい。


その虐待から母親と光壱さんは助けていて、母親も味方でいてくれから学校でバレたりする事もなかったそうだ。


父親からの虐待は小5の春までずっと続いて、ある日ぴたっと止まったらしい。


それは、矢吹くんを光壱さんにすべて任し家を去っていったらしい。


いわゆる、矢吹くんを捨てたという事である。


どこに居なくなったのかは、未だ不明らしい。


矢吹くん本人がどう思っているかはよくわからないみたいである。


それ以降はずっと光壱さんと一緒に住んでいて、だけど光壱さんは末期のガンを患っていて今年の6月に亡くなったらしい。


おじいちゃんが春頃から梅雨あたりまでよく東京の方に訪れに来ていたのはそういう事だったのかと知った。


光壱さんが亡くなった後は、光壱さんはおじいちゃんに矢吹くんの事を頼むようにお願いしていたらしい。


とおじいちゃんから軽い説明のような言い方で教えてくれた。


最後におじいちゃんから最初に言ったように『矢吹くんにちゃんと聞いたらいいよ』と言って去っていった。


その後私は宿題を持って柚里夏ちゃん家に行って、おじいちゃんから教えてくれた矢吹くんの事情を話した。


だけど、私は矢吹くんに聞く事にためらいを持っていた。