君と僕の遥かな想い

「光壱はいつも言っとたよ。『矢吹は本当に可哀想で不憫な子だ。幸せな家庭に生まれさせてやりたかった』って」


「そうですね。…でも、俺は気にしてないんですよ、憎んでないから。ただ、父親の事は心底腹が立ちますけど。あの人は母さんを利用したんですよ」


(なんの話をしているの？)


光壱さんの話しから一転、急に暗い話しに変わった気がした。


一体なんの話しをしているのか分からないでいた。


「どうせ俺はおまけみたいな存在で生きてようが死んでようがどうでもいいんだと思いますよ。だって…俺はあの人にとって家族という認識をされた事ないんですから。更に言えば、息子でもないじゃないんですか」


「…矢吹くん。でも光壱はそんな矢吹くんを『助けたい』と言っていた」


「そうですね、じいちゃんは俺にとって唯一の家族で味方でした。じいちゃんが居たから俺は今があるんだと思います。俺はじいちゃんに助けられてきたみたいなものですから。きっと、じいちゃんはじいちゃんの命と代えに俺に幸せな家庭を見せてあげたかったんでしょうね」


「ああ。光壱いつだって矢吹くんの事を思ってたよ。
最後に話した時に言っていたよ『矢吹だけは助けてあげたい。あいつには幸せになってほしい。どうかお願いだよ、矢吹に幸せな未来を見せてあげてくれ』とな」


「ほんとっお人好しなんだから」


(……っ)


２人の会話を聞けば聞くほど、矢吹くんの悲しい思いが溢れ出てきて、思わず私は硬直していた。


「矢吹くん……」


あなたはいったい何があったっていうの？


「じいちゃんと２人きりになるまでの生活って俺にとっては地獄みたいなものでしたよ。父親からの待遇があまりにもひどくて、俺は人としての扱いをされていないじゃないくらいに酷かったですから。じいちゃんはともかく、一応母親も助けはしてくれててもコンディションは最悪でしたからね。でも、じいちゃんとの生活は本当に幸せだったんですよね。きっとこれが家族との幸せなんじゃないかってね」


「……」


「けど、俺はずっと自分の置かれてる立場に対してどうでもよかったんです。俺が傷付けられようが何されようが、でも、じいちゃんいつも俺を助けたがってました。じいちゃんが俺を助けてくれたんです、全部。だから、恩返し何一つ出来なかったのがすごく悔しくて仕方ないんです。俺はじいちゃんに何かあげれたんですかね」


「矢吹くん……」


その時の矢吹くんの声はとても切なそうで少し弱々しいものだった。