「はいどうぞ」


「ありがとうございます」


おばあちゃんに頼まれたいつもよく行くという数少ない小さなお店で買い物した後、矢吹くんにこの町の道案内をした。


が、いう程あまり何もないけど。


「この辺って本当何もないんだよね。
向こう行ったらもう少しあるけど」


「そうなんだね」


「矢吹くんの友達は駅の反対側の方にあるの?」


「ああ、うん」


駅の反対側の方面に行けば、多少だけどお店とか色々ある。


こっちは多少あるけど、むしろお店より一軒家が多い。


いい所だけど何もないのがネックだと言える。


でも、昔と比べると少しは便利になったかもしんないけど、おばあちゃん家あたりはほんのちょっとだけで、駅近くから反対側は良くなっているみたいだ。


道案内しているとはいえ、口で言うだけの道案内で終わってしまうのでおばあちゃんの家に帰ることにした。



「ねえ、矢吹くん」


「ん?」


私は矢吹くんの事で少し気になる事があった。


おじいちゃんが言っていた゛身内がいない゛という言葉。


「矢吹くんってこの町に1人で来たんだよね?」


「うん、そうだよ」


「ご両親や他の親戚って…」


私はどうしても不思議で仕方なかった。


身内がいないってどういう事なのかって。


「ああ、いないよ」


すると矢吹くんはしらっと頷いた。


「唯一の身内のじいちゃんは病気でなくなっちゃったしね」


「そう、なんだ」


矢吹くんは続けるように言葉を添えた。


「両親は気が付いたら居なくなってて、じいちゃんと2人だけだったからね。それにね、俺と両親との関係は家族という関係とは言えなくてね、むしろ崩壊していたと言っても過言じゃないんだ。だから、俺の家族は初めからじいちゃんしかいなかったんだよ」


「……えっ…と」


どういう事?


居なくなった?


崩壊?


矢吹くんにしては想像できない恐恐しい言葉が彼の口から発せられた事に私は少しだけ戸惑いを感じた。



「………」


それから、矢吹くんに対してそれ以上の質問をする事はなく帰路についた。


だけど、矢吹くんの言った言葉が頭に残ってとても気掛かりでいた。


「……」


矢吹くんはなぜあんな事を言ったのか、どういう意味合いで言ったのか、私には分からずじまいだった。