矢吹くんと一緒に帰っていると、先ほど思ったことを口にした。


「ねえ、矢吹くん」


「ん?」


「矢吹くんって、こっちに友達がいるって言ってたけど、もしかして矢吹くんって…」


おじいちゃんのお知り合いのお孫さんだって言っていたし、それにおじいちゃんのお知り合いって都心の街にいるなんて聞いた事がなかった。


おじいちゃんの知り合いは、ほとんどが田舎の人だから。


「あ、気付いてた?」


「!」


矢吹くんは何か察したかのような表情を向けた。


「実は俺は、元々ここ出身なんだ」


そう言って、にかっとはにかむ。


「!」


(やっぱり、そうだったんだ…)


「って言っても、小さい頃だけどね」


「そうなんだね」


「うん」


と、矢吹くんは少し浮かない顔でポツリと呟きを漏らす。


「君の家族はとても仲が良さそうだね。
それに、とても賑やかだ。…なんだか、少し驚いたよ」


「えっ」


その時の矢吹くんの表情はどこか切なそうで辛そうな顔をしていた。


(矢吹くん…?)



矢吹くんには、まだよくわかっていない自分がいる。


彼はここに来るまでどこにいたのだろう。


そもそもどうしてここに来る事になったのだろうか。


ご両親はどうしたのだろう。


海外に行ってしまったので、おじいちゃんとお知り合いだったからここに来たとか?


色々わからない事だらけで、でも知りたいと思う。


だけど、おじいちゃんが言っていた、【事情】っていったいなんだろう。


知りたいけど無闇に聞けそうにない。


それに、先ほどのあの切なそうな表情あれはいったい…。