「ていうか、知り合いだったんだ」


「あ、うん。
引っ越したお世話になっている人の孫なんだって」


「へえ、唖桐は?」


「学校の」


「ああ、なるほどね」


「びっくりね、知り合いだなんて」


「ですよね」


「………」


(矢吹くんと雫鈴先輩は知り合い?)


3人の会話の中に私は入る事が出来ず、逆に私は矢吹くんの方ばかりを見ていた。


そんな私の視線に気付いた矢吹くんは、私の方へと視線を向け近寄って来た。


「ことはちゃん」


「っ!?」


急に声を掛けられて思わずビクッとなる。


「えっえっ?」


「なんか元気ないね。
向こうにいた時は元気だったのに」


「…ごめんなさい」


「…そっか」


矢吹くんは何を分かったのか分からないが、私に対して理解したかのような表情を向けた。



「…ことは?」


「矢吹くん」


と、お店の方が矢吹くんを呼んだ。


「あ、うん」


「じゃあ、ことは。帰ろうか?」


「うん。あ、矢吹くん」


「うん?」


「ありがとう」


どちらにしてのお礼なのかは分からないが、お礼を言うと矢吹くんはいつものようにかわいい笑顔で向けてくれた。


「……っ」


なんだろう、やっぱり矢吹くんが現れてから気持ちが揺らぐのはなぜだろう。


でも、それは嫌な感じがしない。


(変だな)



「あ、明日家に行くね」


「えっうん」


そう言って矢吹くんはそのままお店の奥へと入っていった。