「どうして、ここに?」


「ああ、くるなさんがことはちゃんと来たって言ってたから」


「………」


「ダメだった?」


矢吹くんは夏休みに別れた日と同じような表情で、時折見せる冷たい表情ではなく、優しくかわいい表情を向けてくれた。


「ううん…」


「ことはちゃん?」



向こうで見ていた私と今見ている私は、矢吹くんにとってはどんな風に写ってるのだろう。


もしかしたら、違和感というのがあるのかもしれない。


私がどうしても毎年田舎に帰る理由は、ただ帰りたいとか、会いたいとか、そういう理由はあるかもしれないけど、今の私の状況と関わる切実なものがあるからだ。



「…ねえ、ことはちゃん」


「!」


私の沈んだ心に察したのか矢吹くんはあえて問うことなく、そのまま近寄っては私のの目の前にある小物を持ち上げた。


「それ…」


それは向こうにいた時、矢吹くんが直していた木の形のした目覚まし時計。


「かわいいでしょ、こっちは売り出しているやつだね」


「………」


「ほしい?」


「えっ」


「いやなんか、ほしそうな顔していた気がしたから」


「いや、かわいいなって」


「そっかそうだね。ちょっと待ってて」


「えっ」


そう言って矢吹くんはそのままお店の奥へと入っていった。


ここのお店の方と知り合いなのかな。


まるでここのお店の方みたいに。


そう言えば、作ってるものを置かせてもらっているって言っていたような。


「………」



私はそのまま勇気を振り絞ってくるなちゃんの方へ戻った。


「あ、ことは」


「月野さん!」


私の姿に好意的な表情を見せたのは、くるなちゃんと雫鈴先輩の2人だけだった。


それもそもはずだ。


他の人はくるなちゃんに浸透している人で、私のことなど嫌いな人しかいないんだから。