「ありがとうございます」


紅茶を受け取り財布からお金を出そうとしたら、先輩は止めに入った。


「ああ、いいよ」


「えっでも…」


「いいから、ねっ」


「あ、はい」


おごってもらう形になってしまった。


先輩がそうしたいなら、無理にお金をもらっても嬉しくないんだろう。


「ありがとうございます」


「うん♪」


お礼を言うとすごく嬉しそうな顔をされた。


たかがそんな事ぐらいなのに、不思議な人だやっぱり。


「では、戻りますね。紅茶ありがとうございました」


そう言って、今度こそ踵を返そうとしたら、また先輩に呼び止められた。



「ねえ、月野さん。待って」


「えっ」


先輩は駆け足で私に近いてきた。


「連絡先交換しようよ」


「!えっ」


「だめ?」


いきなりそんなことを言われたので、少し驚いてしまった。


「だ、大丈夫です」


「よかった」


先輩は嬉しそうにスマホを取り出す。


私も続けてスマホを取り出そうと思ったが、あることに気付く。


(あ、教室だ)


「すいません。スマホ、教室なんです」


「ああ、そっか。えっと…どうしようか。
あ、ちょっ、ちょっと待ってて。すぐ戻るから」


「あ、はい」


そう言って、先輩は駆け足でどこかに行ってしまった。


「?」



それからしばらくして、行きと同じように駆け足で戻ってきた。


「雫鈴先輩? 一体…」


「はい、もらってきた」


「えっ?」


そう言って先輩は二つ折りにされた紙を渡してきた。


「?」


「連絡先書いてきた」


「えっ」


「あとでメッセージちょうだい」


「………」


差し出し出された紙をそっと受け取ると、先輩は嬉しそうな表情を向けてくれた。


そんなに嬉しいんだ。


くるなちゃんの妹というだけで嫌われている私なのに、雫玲先輩は全く嫌う素振りなど見せないで、むしろ交友的で私が受け身を取るとなぜか嬉しそうだ。