「両親……?」
「そいつの両親は、抗争に巻き込まれて死んだんだ。
それから親戚を転々と回ったそいつに宿ったのは、この世界を平和にすること。
伝説だった蝶を蘇らせて、力を統括しようと考えでもしたんだろう。
思想は立派だが、やり方はクソ以下だったな。」
明彦さんも……私たちと同じだった?
たくさん悲しい思いや寂しい思いをして、もう誰もそうならないように蝶を作ろうとした……
「いい加減認めたらどうだ。
こんなことをしても両親が生き返るわけじゃない。
お前はずっと誰かに自分の価値を見出して欲しかっただけだ。」
「……俺は、ただこの世界を……」
明彦さんの瞳が私たちを捉えて、虚ろな顔をした
シロ兄に抱きしめられてる私と私を守ろうとするシロ兄
明彦さんは、私たちの互いを求め合う生き方に自分を重ねてたのかもしれない
自分もこんなふうになりたい、と
知っていた
明彦さんが小さな声で「ごめんな。」と言っているのを
私たちがただの実験体だと言うのなら、こんなに人間らしく接してくれないだろう
その捨てきれない優しさが分かるから、私は明彦さんを恨むことが出来ない
私はシロ兄の手をゆっくりと下ろし、明彦さんの傍にいく
「明彦さん。
私は明彦さんを恨んでいません。」
その言葉に目を見開く明彦さん
「確かに、私の中には私の知らない力がある。
この力のせいで辛いこともあったけれど、この力がなかったら私はあの人たちに出会えなかった。
殺と心を通わすことが出来なかった。
大切な人を守ることが出来た。
だから、感謝もしています。
この先、蝶としてこの力を振るうことは出来ないけれど、幸せのきっかけをくれたこの力を大切にしていきます。」
瞼を閉じればたくさんの思い出が蘇る
この力が私とみんなを結んで、それが今も繋がっている
この糸はもう私の心に絡まって離してくれない
一度知ってしまった幸せを、失くしたくない
「もう少し全うな人生を送るんだな。
行こう、クロ。」
シロ兄に手を引かれて、項垂れている明彦さんの横を通り過ぎた
これからの明彦さんの人生が幸せなものになりますように、と願った