「雫、」



ずっと考え込んでいた倖子ちゃんが、パッと目を開けた。



「明日、空いてる?」



颯見くんのことを何か言われるのかと思っていた私は、また予想はずれの言葉に、え、と声を漏らした。



「もし空いてるなら、明日一緒にカフェ行かない?」



それは、初めての休日のお誘い。


休日に友達と出掛けに行くのも、何度も妄想した。



「行き、たい」



私が言うと、倖子ちゃんはふっと笑った。



「ちなみに、そのカフェは朝羽の両親がやってるカフェ。部活のない日は、朝羽も颯見も手伝ってるらしいよ」



また突拍子もなく出てきた颯見くんの名前に、トンと胸が音を鳴らす。



「で、サッカー部の休みは、明日。言ってる意味、わかる?」



倖子ちゃんが内巻きの髪を、指でくるくると弄びながら、私に横目で視線を送った。



「明日、あたしと一緒に颯見に会いに行こうって話よ」



また、トクンと心臓が音をたてた。



颯見くんに会える。


それを考えると、胸の奥がポッと熱くなる。



休日の颯見くんは、どんな風なのかな。


体育祭の打ち上げで、みんなの雰囲気が違って見えたように、颯見くんも学校とは違うのかな。



そんな颯見くんを、見てみたい。

颯見くんに、会いたい。



奥の方で鎮まっていた何かが、どんどん溢れ出してくるような。

そんな気持ちになった。



「明日の二時。このスーパーの入り口前で待ち合わせね」


「うん」



頷くと、倖子ちゃんは「また電話する」と一言残して手を振って行ってしまった。



一瞬の寂しさが湧くけれど、また明日会えるんだと思うと、寂しさは吹き飛んでしまった。



明日、また倖子ちゃんに会える。

そして、颯見くんにも。



そう思うと、少し緊張が身体を走り抜けた。