「雫は携帯持ってないんだよね? 家の番号教えてよ」



倖子ちゃんはそう言って、ポケットからピンク色のカバーのスマホを取り出した。



「あ、うん」



私が家の番号をゆっくり言うと、倖子ちゃんはそれに合わせて指を画面に当てていく。



最後の数字まで言い終わると、パタっとカバーを閉じる心地よい音が鳴った。



「登録したから。また掛けるね」


「うん」



答えると、倖子ちゃんはふっと笑って、私の右手に持つ籠の中に視線を移した。



「そういえば、」



籠の中に向けられていた視線が、また私の方に戻る。



「颯見とも冬休み入ってから会ってないの?」



てっきり、「夕飯の食材?」とか「おつかい?」とか訊かれるのかと思っていた私は、突拍子もない質問に、トクンと心臓が揺れた。



「えっと……うん」



答えると、倖子ちゃんは、そっかぁ、と考え込むように唸った。



どうして急に颯見くんの名前が出てきたのか、考える間もなく、わかってしまう。



――颯見のこと……好きなの?



図書室に響いた、声にならない息だけの声。



思い出しただけなのに、鼓動のリズムが速くなる。



あの日以降、“好き”がどういうものなのか、何度も考えてみたけれど、全然わからない。



彼氏のいる倖子ちゃんは、“好き”の意味を知っているんだろうなぁ。