――――……


あれからもう、一時間ほどが経ったと思う。



数学の問題集も、もうすぐ期末テストの範囲の分が終わる。



だけど、なぜか、意識が目の前にそびえる本棚の向こう側に向いてしまう。



ふと、聞こえてくる、小声の会話。鈴葉ちゃんと颯見くんの、仲良さげな会話。



最後の一問を解き始めようとしたとき、また、声が聞こえてきた。



「嵐、このスペル間違ってる。エーじゃなくてユーだよ」


「え、マジ」


「うん。ほんと、嵐は英語弱いよねー。カズはどの教科も完璧なのに」


「なんだよ。言っとくけど、体育祭のリレーは俺が勝ったからな」


「まだリレーの勝負なんかにこだわってんの~?」


「体育祭前は、カズに勝つのは絶対無理だって言い張ってたの、鈴葉だろ」



ふっと思い出された、体育祭での颯見くんの言葉。



――頑張る哀咲見てたら、俺も絶対見返してやりたいと思った



なぜか、ずきり、と針が刺さったように、胸が痛みを訴える。



私が颯見くんの言葉や行動に動かされているように、颯見くんも鈴葉ちゃんの言葉に動かされているんだ。



「確かにそんなこと言った気もする。絶対カズが勝つと思ってたから」


「おい」


「じゃあ、今度は英語の点数でカズを抜いてみてよ。絶対無理だろうけどね」


「いいよ、やってやる」


「……二人とも、喋らずに勉強しようよ。ここ図書室だし」


「あ、そうだね」
「あぁ、ごめん」



どうしてだろう。

さっきから、鈴葉ちゃんと颯見くんの小声の会話を聞くたびに、胸に何かがつっかえて、チクチクと痛い。



胸の奥で渦巻いているものが、良いものではないことは、なんとなくわかる。