「哀咲」



落ちてきた声。



トクンと一回大きく揺れて、体の震えが溶かされていく。



ゆっくり振り返って上を向くと、颯見くんの真っ直ぐな視線と繋がった。



「二人で話したい」



言われて、またトクンと心臓が揺れる。



ひゃー、とか、きゃー、とか小さく周りが騒いでる。



頷いて立ち上がると、暗くて見えにくかった颯見くんの顔が少し笑ったのが見えて、また心臓が高鳴った。



「ついてきて」



そう言って歩き出した颯見くんの、数歩後ろをついていく。



「やだキュンキュンする」

「いってらっしゃーい」



そんな声を背中に受けながら、どんどんと人混みから外れていく。



数歩先を歩く颯見くんの背中が、なんだか恥ずかしくて見れない。



今、颯見くんは何を考えているんだろう。



保健室で言われた言葉。

期待しても、いいのかな。



少し火照った体が、波風に吹かれて気持ちいい。




「颯見ー頑張れよー!」

「ファイトだ颯見ー!」


「うっせーよ!」



ときどき男子に飛ばされる野次と、それに応対する颯見くんの声。

その後に女子が男子を怒る声が遠くから聞こえる。



ズザ、ズザ、と暗い砂浜に足をとられながら、前へ進む。



だんだんと、波の音ばかりが聞こえるようになって、クラスメート達の楽しそうな声はだいぶ小さくなった。