颯見くんが、いる。



昨日と同じように、朝羽くんの隣の席――私の前の席に座って、朝羽くんと話している。



急に緊張が駆け巡って、教室の中に入れなくなった。




立ちつくしたまま、颯見くんを見つめる。



窓からの風で揺れる、ふわっとした黒髪。
二重の目に宿る光が潤っている。
さりげなく真っ直ぐ伸びる鼻筋。
くしゃっと笑った無邪気な笑顔。



朝羽くんも同じように端正な顔立ちなのに、どうしてか颯見くんにばかり、目が吸い寄せられてしまう。




颯見くんの綺麗な二重の瞳が、パッと私に向いて、は、と思わず息を吐いた。




「哀咲!」



颯見くんがクシャッと笑って大きく手を振る。

教室中の視線が颯見くんを辿って一瞬だけ私に向いた気がした。



どうしたらいいのかわからなくなって、さっき寺泉さんに手を振って失敗したことを思い出して、軽く会釈してみた。



動悸が激しい。



颯見くんが大きく振っていた手を、今度は手招きするように曲げ伸ばしする。



もう何も考えられなくて、それに誘われるように、止まっていた足を動かした。



どんどん近付いていく距離。


さっき寺泉さんとすれ違った時とは、少し違った心臓の動き。


緊張だけじゃなくて、胸の奥が舞い踊っているみたいな、不思議な鼓動。



自分の席にたどり着いて、ゆっくり椅子に座ると、「おかえり」と颯見くんが笑った。