「もう、嵐! 私の悪口、雫ちゃんに刷り込まないでよ」



怒ったような言いぐさだけど、きっと本心から怒ってるわけじゃないんだろうなって思った。


口調とか、表情とか、どことなく、楽しそうに見える。



「はいはい、ごめん。どうもすいませんでしたー」



それは、颯見くんも同じで。



「ちょっと嵐、棒読み。全然気持ちこもってないし」


「単純って悪口じゃねーよ、むしろ褒めてる」


「やっぱり反省してないじゃん。っていうか、それ全然嬉しくない」



私は、ただ唖然とそれを見ていた。



二人の掛け合いは、まったく隙がない。


いつも私に話しかけてくれるときの鈴葉ちゃんとは、全然違った口調。

昨日、私に優しく笑ってくれた颯見くんからは、想像もつかないような表情。


少し素直じゃなくて、でも分かり合ってる。

幼馴染って、そういうものなのかな。



なんだか、胸の奥をギュッと握りつぶされたような感覚がして、二人を見ていたくないと思ってしまう。




「二人とも、いい加減にしろよ」



私の思いが通じたのかと思うほどのタイミングで、朝羽くんが二人の掛け合いを止めた。



「ところで鈴葉、さっき、哀咲さんのこと“雫ちゃん”って呼んでたけど、知り合いだったの?」



朝羽くんが話題を変えてくれて、なぜか少し安心している。



「うん、そうだよ。雫ちゃんとは中学からの友達」



ね、雫ちゃん、と鈴葉ちゃんに花の咲くような笑顔を向けられて、思わず息を吐いた。



何の躊躇もなく、私のことを友達だと言ってくれた。
じわりと胸の奥が温かくなる。



肯定してもいいのかな。



少しだけ戸惑いながら頷くと、鈴葉ちゃんはまた笑い返してくれた。



「なんだ、じゃあ会わせるまでもなかったんだ」



そう言って目を細める朝羽くん。



この三人は、なんて優しいんだろう。
こんな人たち、私は他に知らない。