そんなことを考えていたから、油断していた。



輪の中心にいた人物が、囲む男子に髪をくしゃくしゃにされながら、輪から出てきた、その瞬間。


胸の奥で、何かが音を鳴らした。



「十二組って、すげぇ遠いな」



朝羽くんに向けて、くしゃりと笑ったその顔に、やっぱり目をとめてしまう。


春風みたいな人。
彼……“アラシくん”が、そこにいる。



彼が輪を抜けて、ここへ来た本命であろう朝羽くんに話しかけたことで。

群がっていたかたまりは自然にいつものグループに戻って、ふざけ合ったり話をしたりし始めた。



教室の入り口から、彼が歩いてくる。


もちろんそれは、私の斜め前の朝羽くんのところへ向かおうとしているわけで、決して私のところへ来るわけではないけれど。

必然的に近くなっていく距離を感じて、なんだか緊張する。


思わず、気づかれないように顔を俯けた。



彼の気配がどんどん近づいてきて、ガラガラっと、私の前の席の椅子が引かれて音が鳴った。


そこにたぶん座ったんだと思う。

朝羽くんの席の隣だから。



でも、私のすごく近くに彼がいると思うと、俯いたままの顔を上げることができなくなった。