ちょうど始業式が終わったのか、廊下の方からたくさんの足音と話し声が聞こえてきた。



そろそろ私も戻らないとなぁ。



そう思ったとき、ガラガラっと保健室の戸が開いた。



開けたのは、これまた知らない男子。


私の目の前にいる人の姿を確認すると、すごい勢いで中に入ってきた。



「やっぱりまだ保健室いたのかよー」



すごく嬉しそうに、彼に話しかけている。



その男子は、一瞬だけ、私と目が合ったけど、誰だろう、という顔をして、またすぐに彼に視線を戻した。



校長先生の話が三十分もあったとか、隣の女子の腕がちょっと触れたとか、始業式中のことを息をつく間もないほどずっと話していて。

保健委員の彼も、それに相槌を打ってる。



先に教室戻ろうかな。お礼だけ言って、戻ろう。



「あ、あの、ありがとうございました」



話し込んでる彼に、聞こえたかどうかはわからないけど。


それを確かめないまま、開けられていた戸を抜けて、保健室を出た。







「哀咲!」







私の名前が、その廊下いっぱいに、響き渡った。



立ち止まって振り返ると、彼が、保健室の戸に手をかけて、身を乗り出している。



どうしてだろう。


なぜか、少しだけ、緊張する。



彼は、私と目を合わせると、くしゃっと笑った。




「またな」




廊下に、心地よい風が吹く。



なんだか、すごく、いいな。



廊下を一人、歩き出す足が、とても軽やかに感じた。