チリンチリン、と、夢の中から連れ戻すように、鈴の音が耳に届いた。



あ、と颯見くんが椅子から立ち上がって、「いらっしゃいませー」とドアの方に笑顔を向けた。



急に視野が広がったみたいに、お店の中の景色が、目に映る。



さっきまで颯見くんと二人の狭い部屋にいたような、不思議な錯覚。



「あ、なんだ。客かと思った」



颯見くんが呟くように言って、視線の先へ足を進めた。



颯見くんとの距離が、少しずつ、離れていく。



「なんだって何よ。私も手伝いに来たのに」



聞こえてきた透き通る声に、思わず立ち上がって、ドアの方を見た。



「ん? あれ? 雫ちゃんだ!!」



私に気づいた声の主が、ふわっと笑って、私の方に歩いてくる。



制服姿じゃない鈴葉ちゃんは、やっぱり、いつもと雰囲気が違っていて、いつも以上に、かわいらしく見えた。



「おさげ髪じゃないんだ!」



ふわりと、春の花のような笑顔を向けて、さっきまで颯見くんが座っていたそこに腰をおろした。



私もそれに合わせて、腰をおろすと、もう一度優しい笑顔を向けられた。



「髪おろしてても、すごくかわいい」



そう言われて、嘘でも嬉しく感じてしまう。


鈴葉ちゃんの方が、何倍も、何百倍もかわいいのに。


そんな鈴葉ちゃんに「かわいい」なんて言ってもらえるなんて、なんだか、すごく、おそれ多い。



「鈴葉ちゃんの方が、もっと、すごくかわいいよ」



そう言うと、鈴葉ちゃんは、くりっとした二重をさらに大きくさせた後、またふわりと笑った。



「ありがとう」



否定するわけでも謙遜するわけでもなく、素直に受け止めてくれる。



鈴葉ちゃんは、私の発した言葉を、すごく大切に扱ってくれる。



きっとそれは、私以外の人に対しても、そうで。だから、みんな、鈴葉ちゃんが好きになるんだ。



「じゃあ、ゆっくりしていってね。私は手伝わなきゃ」



鈴葉ちゃんは、小さくぺろっと舌を出して立ち上がり、カウンターの方へ行ってしまった。