「偶然こんな所で出会ったら、そりゃ緊張するよな」



沈黙を破った颯見くんが、ガタッと向かいの椅子を引いて、そこに腰を下ろす。



目線の高さが同じくらいになったせいか、なんだか、余計に緊張する。



「でも、やっぱり、」



颯見くんの二重の目が、少し揺れる。


垂れた黒髪が、その綺麗な頬に影をつくる。



吸い込まれるように、それを、目が、見つめてしまう。



耳に響く鼓動の音が、颯見くんまで聞こえてしまいそう。



颯見くんには、挙動不審とか、そういう風には思われたくないのに。


一番、颯見くんには、思われたくないのに。



それは。



私が颯見くんを、好きだからなのかな。






笑いかけてくれる。

名前を呼んでくれる。

話しかけてくれる。



それは、鈴葉ちゃんや倖子ちゃんや大西さんたちも、同じ。



それなのに私は、颯見くんにだけ、感じる気持ちがある。



近くに、いるだけでも、こんなに鼓動がうるさくなって、緊張してしまう。



颯見くんの形のいい口から、ふ、と小さな息が漏れた。



もうそれだけで、私は。



「哀咲に会えて、嬉しいよ」



トクン、と心臓が大きく揺れる。



私は颯見くんのことが、好きなんだ――。