「雫、」



倖子ちゃんに名前を呼ばれて、ハッと視線を倖子ちゃんに向ける。



「今、颯見の顔、思い出したんじゃない?」



こわいほどに図星をつかれて、思わず肩に力が入った。


いつもより、鼓動が速くなる。



私の様子を見て、それを完全に見抜いてしまったのか、倖子ちゃんは「やっぱり」とおかしそうに笑った。



「雫は、颯見にかわいく見られたくて、私に訊いてきたんでしょ。昨日からわかってたよ」



倖子ちゃんに言われて、また鼓動がいっそう速くなる。



すごく恥ずかしくなって、倖子ちゃんから視線をそらした。



「雫、」



倖子ちゃんが、いつもに増して、優しい声色で呼んだ。



私はどうしても恥ずかしくて、顔を上げることができない。



颯見くんに可愛く思われたい、なんて厚かましいこと思ってしまって、その上、それを倖子ちゃんに見破られていたなんて。



考えれば考えるほど、身体に熱がこもっていく。



倖子ちゃんが、ふっといつものように笑ったのがわかった。



「恋をすると可愛くなるって言うけど、それは、好きな人に可愛いと思われたいって努力するからなんだよ」



倖子ちゃんの声が、私の心の奥底まで届くほど、静かにゆっくりと響いた。



“好きな人に可愛いと思われたい”


私は、颯見くんに可愛いと思われたい、と思った。



それは、颯見くんのことが好きっていうことになるのかな。



「今日、その気持ちを、確かめてきな」



倖子ちゃんはそう言って、ワンピースを手に取った。



「たぶんね、あいつはこういう清楚系が好きだと思うんだよねー」



顔を上げると、倖子ちゃんはなぜかとても楽しそうな顔をしていて、はい、とそのワンピースを渡される。



「次はメイクね。そこ座って」


「え、メイク?」


「うん。つっても雫は肌キレイだし、うーん、あいつケバいのとか好きじゃなさそうだしなー」



強引に私を椅子に座らせ、独り言みたいにブツブツいいながら大きめのポーチを出してくる倖子ちゃん。



「今回はリップとマスカラだけにするか」



私の顔に何かを施しながら鼻歌を歌う倖子ちゃんがなんだか楽しそうで、私も嬉しくなった。