「おじゃましまーす」


「ただいま」



家に入ると、待ち構えていたように、お母さんが出てきた。



倖子ちゃんは、手土産のクッキーをお母さんに渡して、私の部屋までやってきた。



「じゃあ、ごゆっくり」



笑顔でお母さんが部屋のドアを閉め、階段を下りていく足音が遠ざかっていく。



「この親にこの娘ありって感じ。さすが、お母さんもいい人だねー」



倖子ちゃんは、そう言うと、大きな鞄を床に置いた。


私もその隣に倖子ちゃんのもう一つの鞄を置く。



自分の部屋に、学校の友達がいる。
それがなんだか不思議な光景に思えた。



いつもの自分の部屋なのに、全然違う場所みたい。



「さっそくだけど雫、持ってる服見せて?」



倖子ちゃんに言われて、わざわざ家まで来てくれた理由を思い出した。



少し緊張しながら、クローゼットの扉を開ける。



倖子ちゃんは、ありがと、と言って私の隣までやってきた。



「ん……これだけ?」



訊かれて頷くと、やっぱりかー、と自分の鞄を漁りだす倖子ちゃん。



そこから、水玉模様のセーターが顔を出す。

セーターの次にも、スカート、ワンピース、またセーター。



どうしたらいいのかわからなくて、次々と床に置かれていく洋服達を立ったまま眺める。



もう一つの鞄からも何枚かの服が出てきて、全部出し終わった倖子ちゃんは、ふうっと小さく息を吐いた。



「雫は服持ってないんだろうなぁって思ってさ。雫にあげるよ、これ」


「え、」



でも、と続けようとした言葉を遮って、「遠慮は禁止」と見透かしたように言われてしまった。



「系統変わったからさー、どうせ捨てようと思ってたんだよね」



捨てようと思ってたなら、もらっても悪くはないのかな、と少し罪悪感が軽くなる。



「んじゃ、あたしがコーデしてあげるから、とりあえず全部着てみな」