「服? なんで?」


「あ、えっと、私、オシャレに疎いから、どんな服装がかわいいとか、よくわからなくて……」



こんなことを訊くのは、もしかしたら間違っているのかもしれない。


そう不安になりながら、言葉を繋げた。



私と倖子ちゃんのあいだに、一瞬の沈黙が流れる。



やっぱり違っていたのかも。

図々しかったかな。


そんな思いが、受話器を持つ手を震えさせる。



ふ、と倖子ちゃんが息を吐いた。



「わかった。じゃあ、明日、十時に待ち合わせして、そのまま雫んち行っていい?」



そこで一緒に服考えよう、と倖子ちゃんの明るい声が受話器から流れてきた。



「うん」



答えると、倖子ちゃんが、受話器の向こうで、ふっと笑ったのがわかった。



「じゃ、また明日。切るねー。あ、あたしの番号、履歴みて電話帳にでもメモっといてよ」


「うん。また、明日」



ガチャリ、と受話器から音が鳴ったのを聞き届けて、私もそれを元の位置に置いた。



着信履歴から、一番新しい倖子ちゃんの電話番号を、脇にある電話帳に書き込む。



ふとキッチンを見ると、もう洗い物は終わっていた。



「服装、訊けた?」



腕まくりをおろしながら、笑顔を向けるお母さん。



「あのね、明日十時に待ち合わせして、それから友達が家に来るんだけどいいかな?」



そう訊くと、お母さんは、もちろん、と笑った。