「スーツ?」
「それも覚えてないのね。…名前は覚えてる?私の名前はジャロよ。よろしくね」
うーん、名前…名前…
うーん…
思い出せば、思い出そうとするほど、頭の痛みは強くなる。
「だめだ、思い出せない」
「まあ、何か思い出すまで、ここのレストランでゆっくりとしていくといいわ。家族が迎えに来るかもしれないし」と彼女は微笑みながら言った。
「…レストラン?」と僕は訊いた。
「ええ、そうよ。ここはレストラン“オートラント”。この辺じゃ、結構評判のいいレストランで、有名な人もお客として、たくさん来るのよ」
「もし良かったら、君もここで働いてみるかね?」と低い声が聞こえた。
今度は、ジャロの髪と同じ色をした短髪で、口ひげを蓄えた男の人が、部屋に入ってきた。