だから、分かってる。


私が息も出来ないくらい忙殺な時ほど、神威は私の前に現れる。

そして、他愛ない会話をまるで睦言のように繰り返すんだ。


「なーな。愛してる」

「はいはい」

「ひでぇー。那奈ってば冷てぇの」

「なんでよ?こんなに相手してあげてるじゃない」
 

長い髪をかき上げ、喫煙室から出ると私は後ろからついてくる神威に、少しだけ甘い声を掛けた。


「神威…好きよ?」

「そういうタイミングで言う?すげー、ずりぃ…」

「ふふ、顔真っ赤」


男なんて、と、この職場に入った時から肩肘張って生きてきた。

だから、甘える事なんて何処か遠くに忘れてしまってた…。