小屋が建ち並び、キリキリとした空気が張り詰めた一族の集落。裏路地を通り、その小屋の中で一番大きな屋敷に入る。
 「神那!」
凛として優しい声が少女の名を呼ぶ。少女─神那とは相反する姿がとっ、とっ、と音をたてて近づいてくる。神那とは違い、戦場の汚さを、恐ろしさを知らない表情。「大丈夫だった?」と、珠のような笑顔で問う。神那は、先程とはうって変わって、優しげな顔で「あぁ」と短く返す。いとおしそうにその頭を撫でてやると、はにかみながら見つめてくる。白く清い、神那の双子の妹。皆から愛される存在で、皆の中心。
 神那は我が妹に触れるたび、大勢の人を殺してきた自分が、汚していくように感じた。そう感じたのは神那だけではないのだが。
 「その手を退けなさい。」
冷酷で、低い声が響く。「……申し訳ありません。」と小さく謝罪する。清らかな巫世に、穢れた存在が触れる事は赦されないのだ。例え、その存在が双子の姉であっても。   
 妹は父に連れられ、長い廊下を歩いていく。引き離される理由が解らず、名残惜しそうに神那のいる方向に顔を向けたまま。
 ふと神那が手を見ると、其処にはべっとりと赤い液体がついていた。 
 「…っ……はっ…ふっ………」
血などついていないのに。軽い過呼吸に陥る。心臓の近くが痛む。押さえつけても痛み続け、遂には足の力が抜けた。 
 「ごほっ……かふっ……」
咳き込むと手のひらに血がついた。口に広がる塩辛く、鉄臭い味。余命はあとどれくらいだろうなどと馬鹿らしいことをぼんやり考えながら立ち上がった。