「…はい」

「ちー。よかった。…もう出てくれないかと思った…」



久しぶりに聞く翼の声は、優しくて弱々しかった。




「今ちーのアパートの前にいるんだけど…。中に入れてくれる?」



翼の言葉を聞いた千夏は玄関に駆けていき、ドアを開けた。



「…ちー…」



翼を見た瞬間、我慢していた涙が流れた。




「翼っ…ごめんなさい。ごめんねっ…」

「なんで謝るの?ちーが謝る事なんて1つもないよ」

「…あるよ。私…嘘つきだもん」



そう言って千夏が翼を見つめると、翼は優しく千夏を抱き締めた。


翼の匂いが広がる。





「ちー。俺、ちゃんと勉強して就職も決めて、ちーを迎えに来るよ。だから2年間待っててくれる?」



翼の言葉に返答をしない千夏。

翼は言葉を続けた。




「…俺の為を考えてくれるなら別れないで。俺は辛くたって、ちーがいてくれるなら頑張れるよ。

確かに下手な約束はお互いを縛り付けるだけだけど、約束で終わらせたりしないから。

だから…ちー、別れるなんて言わないで」



千夏は翼の胸に埋めていた顔をあげると、翼の顔を見つめた。

翼の瞳は儚く揺れている。




「…浮気しない?」

「しないよ。俺はちーしか要らない」

「…本当に迎えに来てくれる?」

「うん。プロポーズしに迎えに来るよ」



翼がニッコリ微笑むと、千夏は背伸びをして翼の首に抱き付いた。




「…翼、好き。大好きだよ…」



千夏が耳元で囁くと、翼は千夏をギュッと抱き締め、優しく頬にキスをした。





大丈夫。
大丈夫だよね。


私と翼なら、2年くらい離れていても大丈夫だよね。




私達はそんなに脆くない。

そう信じてるよ。






その日、優しい翼の腕に抱かれながら千夏は目を閉じた。