独り占めしても、いいですか?

私はモゾモゾと布団を出て、2つのダブルベッドの間まで歩く。



「日和、どうしたんだ」



近くまで行くと、透が目を開けた。



「透、起きてたの…?」



私が声を出しても凛は全く動かないから、起きてるのは透だけなんだと思う。



「まあな。

眠れないのか?」



「うん、昼間いっぱい寝ちゃったから…」



それに、私だけなんだかひとりぼっちな気がして…



とは言わないでおいた。



「ねえ、一緒に寝てもいい?」



「………入れ」



ちょっと迷ったみたいだったけど、少し身体をずらして、私の入るスペースを作ってくれた。


私はお礼を言って、透の隣に潜り込もうとしたところで気づく。



「あ、私が真ん中に行こうか…?

確か、男2人は嫌だって…

あっ、それとも、私とシングルベッド変わった方が…」



「いい」



透が私の言葉を遮った。



「日和と一緒なら少しくらい嫌なやつと近くても我慢する」



「だーれが嫌なやつだって?」



「凛っ」



眠っていたはずの凛が目を覚ました。



それを見て、透が『チッ』と舌打ちをする。



仲良くなったんじゃなかったの…?



「日和、真ん中に来い。

落ちたら困るしな」



「落ちないよっ!」



と言いながら、2人の真ん中に入る。



真ん中は2人の温もりが感じられて温かかった。



少しして左右を向くと、2人とも、もう目を瞑っている。



やっぱり疲れてるんだ…



私はありがとうの意味を込めて2人の頬に軽くキスをした。



心臓がドキドキいってる。



キスをしたから…?



でも、不思議と心地いい。



満足して私も眠ろうと目を瞑ると、自然に夢の中に入っていく。



多分、2人と一緒だから安心してるんだ。



10秒後には『すぅ…すぅ…』と寝息を立てていた。


☆*:.。. .。.:*☆



「……日和、それは我慢できない」



「あー、もう、まじで…無防備すぎ。

他の奴にすんじゃねーぞ」



夢を見ている中、2人が顔を赤くしていたことを私は知らない。


♡♡♡



ー2日目ー



「ミクちゃん、どういうこと⁉︎」



2日目は現地集合で、撮影現場で御厨さんと対面したみんなは、会うなり早速責め立てていた。



「何の……

ああ、ダブルベッドのことか。

悪いな、あれはこっちのミスだ」



悪怯れる様子もなく謝る御厨さん。



いつも通りだ。



「いやそれもっすけど…

それよりInfinityのことです!

何で黙ってたんですか!」



「なんだ、もう知ってたのか。

それなら話が早い」



そう言って鞄から何かの書類らしきものを取り出した。



私は少し遠くからでよく見えないけど、この流れだから合同イベントの企画書…じゃないかな?




「今日の午前中は予定通り新曲のPVと写真集用の撮影だ。

午後はお前達にくれてやる。

イベントの打ち合わせをしろ」



そう言って秀ちゃんに書類が渡された。


「Infinity×Sanright…夢のコラボ企画…」



秀ちゃんがタイトルを読み上げると、みんな食い入るようにして紙に目を通し始めた。



沈黙が訪れる。



私は関係ないからその様子を眺めていた。



ちょっと目線を御厨さんに移すと、バチッと目が合う。



すぐにお互い目を逸らしたけど、なんとなく、御厨さんがニヤッと笑っている気がした。



「おい、ここを見ろ」



透が何かに気づいたみたいで、書類の一部を指さした。



「これは…」



「おい嘘だろ⁉︎

なんで日和の名前があんだよ!」



「へっ…⁉︎」



突然出てきた自分の名前にびっくりする。



企画書に私の名前…?



それって、私がこのイベントに出るってこと…⁉︎


「ミクちゃん!」



「企画書の通りだ。

日和にはお前達のライブにサプライズゲストとして出演してもらう。

安心しろ、サプライズゲストのことはInfinity側には言っていない」



そこでやっと思い出した。



昨日の車の中で、御厨が言ったことを。



『明日と明後日もあいつらと一緒に来い』



あの時はなんで…?って思ったけど…



これがあるからだったんだ。



「何が安心しろ、だ。

日和を危険に晒す気か」



「ステージ上にはお前達がいるだろう、フォローくらいしてやれ」



『一般人のフォローくらい難なくこなさないとプロとは言えないな』



とでも言いたげな表情。



みんなと御厨さんが対立する形になってきた。



な、なんとかしなくちゃ…



けど、私がステージに出るなんて…無理っ!



でも私がやれば全てが解決…


「おい!

マネージャーだからって、俺たちがなんでも命令に従うと…」



「凛、俺に任せて」



秀ちゃんが一歩前に出て怒鳴っている凛を止めた。



そのただならぬ表情に、凛もコクっと頷いて引き下がる。



秀ちゃん、最近新しい属性出てきたよね…



「御厨さん、それはちょっとあんまりじゃないですか?」



秀ちゃんが冷静さを光らせる。



こういう時の秀ちゃんは、強い。



「なんだ秀也、珍しいな。

お前が仕事内容に口出すとは」



一気に秀ちゃんVS御厨さんの戦場になった。



他のみんなも空気を読んで、一歩身を引き、口を閉じる。


「一般人をいきなりステージに立たせるにはリスクが高すぎます。

それに見たところ日和の許可も取っていない。

それは少し勝手過ぎるんじゃないですか?」



秀ちゃんの言うことは誰もが考えることであり、正論だった。



でも、御厨さん怯む様子はない。



「お前達なら一般人の1人くらいフォローできるだろう。

それに一般人と言っても他人じゃない。

お前達の幼なじみで、世間で言うひよ姫だ。

協力を仰いだっていいんじゃないか?」



「でもっ…」



「じゃあお前達だけで勝てるのか」



「え…」



御厨さんが厳しい表情を向けた。



「世間は嫌でもこれをInfinity VS Sunlightという目で見るだろう。

Sunlightは今のところ完敗だ。

厳しいことを言うかもしれないが、今のままではInfinityは超えられない。

お前達だって負けたくはないだろう」



「だから日和の力を借りて…」



「ああ」


・・・・・。



全員が黙った。



言い返していた秀ちゃんも、悔しそうな顔をして何も言わない。



でも…



「それは…違うと思います」



気づいたら口に出ていた。



みんなが驚いた顔で私の方を見る。



言った後で『私何やってんのっ…!』って思ったけど、止まっている暇はなかった。



「Sunlightはすごいアイドルです…!

私の力なんかなくてもInfinityくらい超えてみせますっ!

みんなの凄さは私が1番わかってる。

だから、絶対Infinityだって超えるって信じてる!

……御厨さんは、違うんですか…⁉︎」



苦手と思っていた御厨さんに対して、こんなことを言っている自分にびっくりする。



心臓が張り裂けそう。



でも、みんなのことを考えたら、こんなのどうってことなかった。



「では今回のイベントで勝つ為のアイディアでもあるのか?

勝算があるのか?」



「それは…」



針のような眼差しを受けて逃げたくなる。



やっぱりこの人苦手っ…!