「絆創膏出しておくから洗っておいで」
 
とん、と梓の背中を押した。梓が洗面所へ歩いていく。

今自分で行かせたばかりなのに早く戻ってきてほしくなる。早く戻ってきて、もっと甘えてほしい。


俺が消毒液と絆創膏を持って待っていると梓がリビングへ入ってきた。
 
「梓、消毒しよ。痛いかもしれないけどちょこっと我慢してね」
 
彼女の指を優しく持ってそう言う。

小さくて柔らかくて、守りたくなるような手。
俺が守らなくてはならない手。

梓を守るんだ、という決意を新たにしたところで梓の顔を見ると、なんだか幸せそうに笑っていた。
 
「どしたの?」
少し驚いたけど、そんな梓はやっぱり可愛い。
 
「えへへ、別にぃ」
秘密っぽく笑って彼女が答える。
少し顔が赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。
 

「あ、俺に惚れなおしてた?」
ふざけて言ってみせた。

ますます彼女の赤みが増した気がする。
 
「うん。惚れなおした」

そんな意外な答えが返ってきて、俺の頬は赤く染まった。

嬉しい。
でも、恥ずかしくて、擽ったい。

そんなことを言われたら、理性が保てなくなる。もういっそ襲ってしまおうか、と思った時、梓が抱きついてきた。理性が保てなくなったのはお互い様だったみたいだ。

俺は笑いつつ「消毒!」と言った。消毒が終わってからじゃないと心配でゆっくりできない。
 

「やだ、待てない」
 
「だーめ」
 
「ぎゅっとするの!」
 
梓が子供みたいに駄々をこねる。彼女がこういう態度をとるのはたくさん甘えたいという印だ。

俺はポンと梓の頭に手を置いて言った。
 
「終わったら沢山甘やかしてあげるから」
 
甘やかしてあげるというか、甘やかしたいだけだし、甘えてほしいだけだけど、そう言うと効果が抜群だというのは今までの付き合いから分かっているので使わせてもらう。

案の定、梓からのお許しが出たので、丁寧に消毒をして絆創膏を貼った。