あたしの隣の子は拡の熱狂的なファンらしく、小柄で大人しそうな見た目からは想像もつかない程の大きな声と動作は周りをも圧倒させている。
二階席の三列目。
普通に考えて届くはずもないのに、顔さえはっきり見えないこの距離で彼女は何を期待しているのだろう。
それでも真冬に汗をかいて必死に拡を求める彼女を、どこか羨ましく思う自分もいた。
「そうだね、優斗。まだ夢みたい」
優斗とは対照的なクールで無口なキャラを演じている拡。
歓声からでもわかる圧倒的な人気。
でも、あたしが知る加賀拡はそんな人じゃない。
口数が多くいつも笑顔で、一人が嫌いで、真っ直ぐで、ちょっとだけいい加減な人。
スクリーンに映し出される加賀拡とは全くの別人。