裏のドアから店に入れば、厨房で動いている父さんの姿が視界に映る。


その光景に、懐かしさで胸が締め付けられた。


「父さん…」


「……辰巳?こっちに来るなんて珍しいな……何かあったか?」


「あー……うん」


こっちに気づいて手を止めた父さんに、俺は頭をかきながら口を開いた。


「…チョコ作りを、教えてもらおうと思って」


「えっ?」


「あ、いや、忙しいのはわかってるんだけど!
バレンタインに手作りを渡すことになって…」


って、なんかこの言い方誤解されないか!?


1人慌てていると、父さんの顔がほころんで、


「わかった。仕事終わりになら教えられるから、毎日ここに来ればいい」


「い、いいの…?」


「あぁ、もちろん」


断られるかと思っていた。


あんな言葉を放った俺なんかに、教えてくれるはずがないと思っていた。


でも目の前の父さんは、あの頃を懐かしむように柔らかく微笑んでいて。


「………」


俺はまた複雑な感情を抱きながら、父さんの横に並んだ。