「あー…くそっ」


帰路を1人歩きながら、俺は苛立ちをあらわにする。


なんであんなわけのわかんない女に、俺が振り回されなきゃいけないんだ。


『私にチョコ作ってくれないんだったら、クラスの人達に君の家はショコラ・エテルニテだってバラす!』


「チッ……」


バラされるなんて、冗談じゃない。


俺はもうあんな思いはしたくないんだ。


「ただいま…」


ショコラ・エテルニテと隣接する家に帰ってくると、母さんの声がリビングから届いてくる。


「おかえり、辰巳。今日は遅かったのね」


「あー、うん。…ねぇ、父さんって店の方にいるよね?」


「え?えぇ、そうよ。今は明日の仕込みをしてるんじゃないかしら」


「わかった」


「珍しいわね。辰巳がそんなこと聞くの」


「ちょっと用があって…」


「そう。行ってらっしゃい」


「…うん」


母さんの嬉しそうな笑みが、あの頃の俺を思い出させる。


「………」


複雑な感情を振り払うように首を振ってから、俺は家を出た。