輝夜の手を引いて屋敷に戻った息吹は、雪男にもたれかかって寝ている朔を見て笑みが漏れた。

なんと微笑ましい光景なのだろうか。

朔は父の主さまを尊敬してはいたが、ああして甘えることはほとんどない。

また主さまも一応頑張ってくれてはいるが、基本ひとりの時間が好きなため、自室にいることが多い。


「朔ちゃんただいま」


「…あ…母様…お帰りなさい」


「ん?おお、息吹お帰り」


「うん。ねえ雪ちゃん、主さまは?」


「まだ寝てる。起こしてこようか?」


「ううん、ちょっと様子見て来るから朔ちゃんと輝ちゃんを見ててね」


頷いた雪男に朔と輝夜がまとわりつき、それを見届けてから息吹は今や夫婦共同の部屋となっている主さまの部屋を予告なくいきなり障子を開いた。


「主さま聞いて!」


「………なんだ…」


うつ伏せで寝ている主さまの枕元で正座した息吹は、先程輝夜が見せた妙な兆候を話した。


「輝ちゃんがまた変だったの。じっと平安町の方を見ててなかなか動いてくれなかったの。なんだと思う?」


「…わからん。情報が少なすぎる」


「父様に聞いてきてもらえない?私が行ってもいいんだけど」


息吹のいう“父様”とは育ての親の安倍晴明であり、平安町で人のために知恵を授けて助ける暮らしをしている人と狐の妖の間に生まれた半妖。


主さまとは顔を合わせれば皮肉を言い合い、仲が良いのか悪いのか分からない間柄。


「…分かった。百鬼夜行の前に聞いてきてやる。輝夜は何と?」


「なんにも教えてくれないの。そういう時って主さま…」


「…ああ、何かある時の前兆だな」


ゆっくり起き上がった主さまは、早速長い髪を櫛で梳いてきて橙のお揃いの髪暇で纏めにかかる息吹の細い手を取って安心させるように頷いた。


「心配するな。俺が何とかしてやる」


「うん、主さまお願いね」


一緒に部屋を出ると、庭を掃く雪男を真似してふたりが小さな箒を持って庭を駆け回っていた。


何かの前兆ーー

ただ平穏に暮らしたいだけなのに。