屋敷の地下には秘密がある。

まず地下一階には雪男の自室である氷室があり、地下二階には地下牢が。

そして地下三階には特別な結界が張られた牢があった。


地下三階に降りた時点で既に強力な結界があるためそれ以上の立ち入りは主さまと直系でもごく僅かの者たち、そして雪男だけが何があるのか知っていた。


「声がしたのは確かか」


「直接発声した感じじゃなかった。頭の中に流れ込むような…」


「…そうだろうな」


息吹を送り出した後人目を盗むようにして階段を降り、目的の場所に向かう間、主さまは家に伝わる文献でのみしか真相を知らず、三階に着いた。


「うわあ…ここに来るのどの位ぶりだろ」


「俺もそんなにここに来たことはない」


それほどに厳重に監視されている場所。

当主のみがその結界を解く術を知っており、主さまが複雑な印を結んで集中する中、雪男は全身に妖気を溜め込んで愛刀雪月花を顕現させて身構えた。


ぱりん


儚い音と共に結界が解けると、その声は明快にふたりの脳裏に響いてきた。


『……に…あの…方に…会いたい……』


「主さま…」


「用心しろ。行くぞ」


天叢雲を手に暗闇の中を進む。

むき出しのごつごつした岩の壁と足元ーー

進むにつれて感じたことのない気が身体にまとわりつき、雪男が背筋を震わせた。


そして突き当たりには札が幾重にも張られた堅牢な檻。


その中に、件の声の主はひっそりと鎮座していた。


『あなたは……違う……』


「…久々に会ったな。そんなに荒ぶってどうした」


それはやはり実際に発声しているのではなく、直接脳裏に響く高い声だった。


ーー珍しい金の色をした髪に真っ白な肌、深い深い青の目ーー


それは、女だった。


『まだ……なの…?』


「…何を待っている?」


『……分からない…の…?そんなに…時が…経ったの…?』


絶望に濡れる目。

主さまと雪男は顔を見合わせて真意を推し量る。


女の絶望はとても深く、顔を覆って肩を震わせた。