主さまが百鬼夜行から戻ってきた時、息吹の気配がまだあったため様子を見に行こうとした時、出迎えに来ていた雪男に呼び止められた。


「主さま、聞いてほしい話があるんだけど」


「…なんだ」


「あれの声が聞こえた」


主さまの足が止まった。

“あれ”と聞いていつも固い表情がさらに固くなり、顎で縁側を指して座るように指示すると、主さま自身は立ったまま腕を組んで座った雪男を見下ろした。


「…なんと言っていた?」


「いや、よくは聞こえなかった。だけどあれが喋るのはものすごく久しぶりじゃないか?だから嫌な予感がするんだ」


「…後で様子を見に行く。お前もついて来い」


「了解」


「あ、主さまお帰りなさい!父様の所に行く前に会えてよかった」


いつものように息吹が朗らかな笑顔で現れると、ふたりの曇った表情に首を傾げた。


「どうしたの?喧嘩?」


「いやいや喧嘩じゃない。ちょっと小難しい話してただけ。な、主さま」


――主さまと雪男が気にしている案件を息吹は知らない。

本来は話しておかなければならないことなのだが、それを話したことで何か危険な目に遭いはしないかと事情を知る皆で話し合った結果伏せることになった。


「…ああ。息吹、まだ早朝だぞ。もう行くのか」


「うん、あっちでお買い物とかしておきたいし、朔ちゃんたちが寝てる間に行った方がいいと思って」


昨晩一緒に寝た時も夜泣きする子が居てとても心が痛んだ息吹は、朔と輝夜にそうしてほしいと言われて発つことにした。


「主さまも絶対来てね。私…」


空気を読んだ雪男がそっとその場を離れると、息吹は主さまにそっと抱き着いて、やわらかく抱きしめ返す手に手を重ねた。


「…ああ、行く。なるべく怖がらせないように心がける」


「ふふっ、お願いします」


今度は主さまが息吹を見送る。


…今はこの屋敷に居ない方がいい。

きっと何か起こる前触れなのだ。


息吹と子供たちは、何があっても必ず守り通す。