山姫はやはり思い詰めていたのだ――

育ての母である山姫と、生みの親の百合…

ふたりともとても大切な存在であるため比較はできないが、山姫とは血が繋がっていなくとも、縁は切っても切れないほどに深く繋がっていると実感している。


「母様…如月がぐずってるんです。説得できなくてごめんなさい」


晴明の屋敷には昔使っていた着物などがそのまま残っているが、一応身の回りのものを持っていこうと用意をしていると、朔が申し訳なさそうにそろっと障子を開けて謝ってきた。


「如ちゃん…今どこに居るの?」


「雪男にしがみついて離れなくて…あのままじゃ雪男が火傷するし、如月が凍傷に…」


あれほど雪男にくっついてはいけないと口をすっぱく言っているのに。

息吹は頬を膨らませて朔に案内されて如月の自室で雪男の膝に乗ってしがみついたまま顔を上げない長女のつむじをつんつん突いた。


「こら如ちゃん。雪ちゃんが溶けちゃってもいいの?」


「息吹、早くこれ引きはがして…」


如月は鬼族の血が濃く顕現したため、とても力が強く気が強い。

朔や輝夜がどれだけ力を込めても離れない如月の脇をくすぐった息吹は、身悶えしながら飛び退って涙目で睨んできた娘の前で正座した。


「如ちゃん。何か言いたいことがあるのなら母様に言いなさい。雪ちゃんに迷惑かけちゃ駄目」


「…母様は私たちを捨てていくんでしょ?」


「捨てる?誰が?誰を?変な言い方はやめなさい。母様はあなたたちのお祖母様の介助をしに行くの。あなたは会ったことないでしょう?だから今度遊びにおいで」


「母様を捨てて行った人の所になんて行かないで」


直球を放たれた息吹は苦笑して、自身の身体を抱きしめて全身で拒絶しようとする如月をふわりと抱きしめた。


「捨てて行った人だけど、情があるでしょ?如ちゃんも半分は人なんだよ。お祖母様の歩んできた道を今から話してあげる。それでも同じことが言えるかな?」


息吹はそれから時間をかけて如月より下の子たちも集めて話を言い聞かせた。

話した後、誰からも文句は出ず、皆があたたかい心を持った子に育ってくれたことに感謝した。