下弦が百鬼夜行に出かけている間、少女はひとり部屋の中をきょろりと見回していた。


…一体自分はどこに居るのか?

そしてあの優しげな男は何者なのか?

誰かも分からない男の世話になっていること自体どうしようもなく歯がゆかったが、とにかく全身が痛くて焼け付くような痛みに顔をしかめてまた身体を横たえた。


息吹はそんな少女の傍に恐る恐る近付いて正座すると、地下に座している時と全く容姿の変化がない少女に驚きながら届かない声をかけ続けた。


「あの人は大丈夫だよ、だって主さまの祖先様なんだもん。悪い人なわけないよ」


もちろん返事はないのだが、何かの気配を感じているのか――少女は目だけをきょろきょろ動かして気配を探っていた。

もちろん触れることもできないのだが、息吹は子をあやすように布団をぽんぽん叩いて笑いかけた。


「大丈夫、大丈夫…」


――やはり話さない。

だがそれは最早どうでもいいことで、‟大丈夫”と声をかけ続けていると、少女の目がとろんとなって眠りに落ちて行った。


息吹はそれを見届けて壁側に移動すると、膝を抱えて座ってどうしたらいいのか考えた。

いつも通りであれば、いつかは元の場所に戻れる。

何度か同じ体験をしたことがあり、主さまを冷や冷やさせたことがあるため、特に不安はなかった。


ここへ来たからには必ず意味がある。

主さまや朔たちには悪いが、少女から自分たちのことを知ってほしいと懇願されて、それを拒否できるような非情さは持ち合わせていない。


「せめて名前だけでも知りたいな…」


下弦と謎の少女――

ふたりが出会った運命の物語を、体感する。