ティーダの体は、一体何メートル飛んだのか。

吹き飛び、床に落ち、転がり、リングから落ちるギリギリの縁でようやく止まる。

…残心を決め、龍一郎は息を吐いた。

ティーダが手も足も出ない。

…龍一郎は試合開始から、既に聴勁を使っていた。

肌から伝わる微細な振動で、ティーダの動きは手に取るようにわかる。

どの角度からの、どんな斬撃が、どの程度の力加減で放たれるのか。

それは当てるつもりの斬撃なのか、只のフェイントなのか、牽制か、必殺の一撃なのか。

攻撃を仕掛ける以上、自ずと伝わってくる。

ティーダのような直情的な性格の者ならば尚更だ。

単純な正面からの打ち合いで、今の龍一郎を出し抜く事は難しい。

ならば。

「シルフ」

ティーダは風の精霊の加護を得る。

身体能力、特に脚力を向上させ、素早い動きで翻弄する。

如何に聴勁で先読みできたとしても、只の人間の反射速度には限界がある。

動きが読めても、対応し切れない筈だ。

事実、観客達にはティーダの動きを目で追えない者が殆どだった。

文字通り風のようなティーダの動き。

フェイントを交えて龍一郎に迫ったティーダは、ユースティティアの一撃を。

『ここだろう?』

いともあっさりと回避された。