そんなことを思い返していると、ふと懐かしい場所を思い出す。
「かなとゆずのひみつきち…」
ある所に幼稚園の頃付けた名前だ。
あれは…どこにあったんだっけ…?

「ああ、秘密基地。あそこ今俺の部屋のクローゼットだ」
上からかなたの声が降ってきて、はっとかなたの存在を思い出した。
「あ、かなた居たんだった」
うつむき気味でぼそっと呟くと、ちょいギレのかなたの声が真横で聞こえる。
「うん??僕の存在忘れてたの??ねえゆず??どーゆーことかな??」

…これはやばい
かなたが自分のことを「僕」と呼び、無駄にはてなマークの多い喋り方をする時は、大抵恐ろしいことになる。

「ごめん…私…あの…」
どうしようどうしようと頭がぐるぐる回る。
前怒らせた時はどーなったんだっけ…確か、一緒にホラー動画を見させられたような…
あのゾンビ…怖かったな……
ゾンビの恐ろしい顔を思い出し、途端に震えが止まらなくなる。


「…ゆず?」
ゆずがずっと黙っているので、かなたが不思議そうに声をかける。
「…」
ゆずが俯いていて、背の高いかなたからはゆずの表情が見えなかった。
ちょっと怖がらせちゃったかな…
「えっと…ゆず?あの、ごめんね、俺怒ってないから…大丈夫だから…顔上げて?」
かなたの優しい声色を聞いて、ゆずの肩がぴくっと跳ねる。
そしてばっと顔を上げると、怯えた目でかなたの様子を伺った。

え…俺そんな怖がらせちゃった…?
予想を遥かに超えた反応に、逆にかなたも怖くなってきた。
どうしようかとおどおどしていると、急にゆずが震えた声を上げた。

「ゾンビ…やだ…怖いの…怖い……」

「え」

予想外すぎる言葉に、かなたの頭は真っ白。
…なんでゾンビなんだ…?

2,3秒に答えは出た。
あ、そっか。この前の…
嫌がるゆずに無理やりホラー動画を見させた事を思い出した。
ホラーといっても全然怖くないような内容だったけど、確かゾンビも出ていたはずだ。
ゆずはホラーが苦手なのは知っていたけれど、まさかあそこまで怖がるとは思わなかった。
5分程度の動画だったが、見終わった後ゆずはかなたから離れようとせず、「背中は任せた」だの「かなたは私が守る」だの今にも泣きそうな弱々しい声で言っていたのを覚えている。
強がりなゆずのことだ、本当は一人になるのが怖くて堪らなかったのだろうが、逆に強気な言葉を吐いたんだろう。
身体中震えまくりで、怖さのあまり上手く体を動かせないらしく、立つことすらできなくて、あの時は大変だった。
そしてゆずは昔のことをよく思いだすタチだ。
それで今あのゾンビの事を思い出し、あの時と同じような状況になってしまっているのだろう。