「あ、ゆず」
控えめに、でもはっきりとした声に呼び止められ振り返ると、幼馴染のかなたが手を振っていた。

「ゆずはほんっとブレないよね」
校則の端から端まできっちり守ったゆずの格好を上から下まで凝視しながらかなたが言う。
「それ、褒めてるの、貶してるの…」
小声でツッコミをいれながらちょっと笑みをこぼす

かなたは「べつに」と適当な返事をよこし、のんびりと背筋を伸ばした。
学校でのかなたはかなり大人しく、いつも冷静で、誰に対しても敬語を使う。そんな人だった。
私の前ではこんな感じだけれど、ほかの人から見たら「theクールイケメン」らしい。
どこがクールイケメンよ!とつっこみたいところだが、生憎私はかなりの人見知りで、クラスに自分から話しかけられる人などいない。いや、そんな悲しい私の学校生活はどうでもいいのだ。
「クール」という部分はちょっとよくわからないけれど、「イケメン」という部分は少し理解できる。
中一の頃、慣れない制服を着て居心地悪そうに窓の外を眺めるかなたの横顔を見て、「あ、綺麗」って思ったのを覚えている。
その直後、そんなことを考えてしまった自分が恥ずかしくてたまらず、頭をぶんぶんと振っていたら先生にとても心配された。
その事もあり、あの日は私の中で黒歴史だ。もっとも、そんなこと当の本人は知るわけがないけれど。
そんな恥ずかしいこと、他の人はおろか、本人になど言えるはずがない。
でも、あの時のかなたの横顔はよく覚えている。
色素が薄く、羨ましいほどすべすべな肌と、長いまつげ。髪の毛は長すぎず、短すぎず、さらさらでふわふわ。
遠くを見つめる明るい瞳にきらきらとした光が見えて、とても綺麗だった。幼馴染でずっと見てきた横顔のはずなのに、驚く程に輝いて見えたのだ。
まさに「美少年」というところだ。
あの頃はまだ背も私より小さくて、華奢な体格をしていた。
今では私の背などとっくに通り越して、私の目の高さにしっかりとした肩がある。
ほどよく筋肉もついてるらしく、少し体が当たってもまったく動じることがない。昔はちょっとぶつかられただけでしりもちをついて、目をうるうるさせていたというのに。