「はぁ…………」
私は大きくため息をついた。

目の前には…
"神楽坂旅館"
私の家。
100年以上前から代々伝わる老舗の旅館だ。

私はその神楽坂家の次女、神楽坂杏(かぐらざか あん)

今は私の祖父が館長をしていて、祖母が女将。母が若女将をしている。

この家には、普通の家とは違う決まりがある。

結婚は親が決めた者とすること。

これは、絶対逆らえない。

だからどれだけ人のことを好きになっても、親が選んだ良い家柄の人としか結ばれてはいけないのだ。

私はこんな自分の家が嫌いだ。

私はあの人のことが……