「今の私は肩の傷の治りも芳しくなく、
 刀を振るうこともままならない。
 新選組局長の座は、歳が私の為に必死に守り抜いた場所だ。

 だが……今の私は、その思いに応えきることが出来ない。

 もう疲れてしまったんだ。
 誰かの命の犠牲の上に成り立つこの場所に……。

 このまま、歳らに守られてばかりの私ではいけないだろう。

 山南さんは新選組の礎として、
 その命の使い方を知っていた武士の中の武士だと今でも思っているよ。

 だからこそ、今こそ、私は私が為すべきことを、
 武士らしく全うしたい思っているんだ」


そう言うと近藤さんは静かに立ち上がって、
部屋の片隅に置いてある荷物の一角から、風呂敷に包まれている大事そうなものをゆっくりと私の前に置いた。

「山波君に頼みがある。
 これをあけて貰えないか」

そう言われて、風呂敷を手前に引き寄せて受け取ると、
ゆっくりと結口を解いて、風呂敷を広げていく。


するとそこから出てきたのは、懐かしい新選組の羽織だった。
思わずその懐かしい羽織に手を伸ばす。


私が山南さんから託された羽織は、鳥羽伏見の戦いでボロボロになってしまって、
今は僅かな布切れでしかないけど、それでも私にとっては大切な宝物で、
いつもお守りと一緒に持ち歩いてる。


「私の羽織だ。
 私の思いは常に、この羽織と共にある。
 だから山波君、これを切り分けて隊士たちに託してほしい。
 私の想いは、皆の誠共にここにあるのだと」


そう近藤さんは私に告げた。
そして「歳を頼む」と、告げると肩を震わせながら背中を向けた。


そんな想いを受け止めるように、
私は背中越しに、深く一礼をして近藤さんの部屋を後にする。


近藤さんの羽織を手にしたままの私は、
舞の待つ部屋へと向かう。

そしてその家の主に裁縫道具を借りて、
その思いに報いることにした。

躊躇いもなく、近藤さんの羽織にハサミを入れていく。
それをお守り袋のように針と糸で縫い上げて、
お守り袋の正面には、誠の文字を刺繍する。

夜通し作業を続けた私は完成した明け方、
それを手にして再び近藤さんの部屋へと戻った。

完成したお守り袋を近藤さんの前に差し出す。


「山波君、有難う」

嬉しそうに告げる近藤さんに、私は最後のお願いをする。

直筆で近藤さんの手紙を綴って、
それぞれの隊士のお守袋に入れてくださいっと。


そんなお願い事を残して、近藤さんの部屋を後にすると、
今度はまだ蝋燭の明かりがついたままの土方さんの部屋へと近づいた。


「誰だ?」

室内から殺気が漂う声が響く。

「夜分遅くに申し訳ありません。
 山波です」

室内に向かって声をかけると「入れ」っと言って、
土方さんは私を室内へと招き入れてくれた。