「行っちゃったね」

「うん。
 行っちゃった……舞。

 私、山南さんだったらどうするだろうって。
 心の中でずっと、山南さんと話しながら、
 近藤さんたちとの間の絆を、歯車が外れようとしてるなら、取り持ちたいって思った。

 でも……私の入る幕なんて何処にもないよ。
 仲間割れなんかじゃない。

 二人の心は、近藤さんと一緒に合った。
 話し合いの結果、今、この瞬間の道は違えてしまったけど、
 遠い未来で見る夢は同じなんだって思っちゃった」



そう言うと花桜も部屋から出る。

この家の主にお礼を告げた後、
外へと歩き出した。

冷たい風が頬を撫でていく。


長い髪を揺らしながら、
私の前を歩いていた花桜は立ち止まって夜空を見上げた。


花桜は目を閉じて何かを祈っているみたいだった。




「花桜、敬里は?」

「今は医学所で休んでる。
 ホント、あの馬鹿。
 風邪、治りきらなくて悪化させてさ。
 
 元気になったらとっちめてやんないと」


花桜はそう言いながら、私に笑いかけた。


「そうだねー。
 でもさぁー、ある意味今、医学所に居て貰って良かったんじゃない?

 ほらっ、私たちが知る沖田総司は、
 この頃、結核病で動けないはずでしょ。

 敬里が沖田総司として動き続けてたら、歴史が歪められちゃう」

「それもそうだねー。
 肺結核で亡くなったはずの沖田さんが、
 敬里が生きてることによって鳥羽伏見の戦いの生存者なんて未来、
 変えていいはずないよね。

 うん。よしっ、沖田さんには悪いけど、ちゃんと死んでもらわないとね。
 歴史通り」


私の言葉に、花桜は物騒な言葉を続けた。



この先のどのタイミングで、敬里を沖田総司の大役から解放するか……。
そんなだいそれた計画を企てながら、
私たちの夜は更けていった。



今の花桜には伝えることはないけれど、
「会津で会おう」
その言葉が、新選組十番隊組長・原田左之助隊士との最後の別れになることを……。




遠い、舞ちゃんの記憶で知る、その先の未来。

原田さんは、靖兵隊として会津に向かう途中、
用事があると行徳宿で隊を離れるものの、
官軍に囲まれて追いつくがかなわず、彰義隊の人たちと上野の戦に参加し、
戦死したと言う噂が、会津へも届いたということだけ。




歴史は巡り続け、時代は益々混迷していく。




私も頑張らなきゃ。

私自身のエゴから巻き込まれた、
大切な友を未来へ帰らせるまで。