「そう思ったお二人を、何を考えられたんですか?」
花桜は静かな声で、二人に問いかける。
花桜の姿に、在りし日の山南さんが重なっていくみたいだった。
「会津だよ」
「そう、会津。今、左之が話した通りだ。
会津には、容保公がいらっしゃる。
それに会津には戦いを知る兵(つわもの)たちがいる」
「そうだ。
あの京都の鳥羽伏見を戦い抜いた頼もしい奴らがいる。
寄せ集めじゃない。
だからこそ、オレたちは会津に向かわないといけない。
そんな決断になった。
その後は、必要なものは軍資金だ。
新選組としておおっぴらに、今の世の中動けるわけじゃない。
オレは新八と相談して、松本先生の元へと向かった」
「松本良順先生?」
「あぁ。
俺たちのことを知る、その人の元へと交渉に走った左之は、
軍資金を借りて靖兵隊(せいへいたい)を結成した。
その靖兵隊のリーダーとして近藤さんにたってもらって、
会津へと合流しようおもったんだ」
「なのに、あのバカは、聞く耳をもちやしない」
永倉さんと原田さんが吐き出した言葉は、
昔の嘉賀舞としての記憶にも知識にも存在しない歴史。
だけど……見事、すれ違いじゃない?
「そうだったんですね。
お二人のお気持ち、私はしっかりと受け止めました。
離れていても、新選組の絆は消えない。
私はそう思ってます。
ちゃんと、天国で山南さんも永倉さんと原田さんと一緒に、
戦ってくれると思います。
引き留めてしまってすいませんでした」
花桜はそう言って、二人の方を向くと深々と頭を下げた。
「永倉さん、原田さん。
俺たちも会津を目指す。
その気持ちに変わりはない。
だから二人は一足先に、容保公の傍へ行ってくれ」
静かに会話に聞き入っていた斎藤さんは、
そうやって言葉を紡ぎだすと、ゆっくりと部屋から出て行った。
「お二人とも、ご武運を」
斎藤さんが出て行った後、
スクっと立ち上がった永倉さんと原田に向かって、
正座のまま花桜はそう言って、再び頭を下げた。
私も花桜の隣で、同じように頭を下げる。
「山波君、加賀君。
君たちも同じ志を持つもの。
頭を下げるなんてやめて欲しい」
永倉さんはそう言うと私と花桜の肩を抱くようにして、
立ち上がらせる。
「では、一足先に会津に参る。
ごめん」
そう言って一礼する永倉さん。
「会津で待ってる」
そう言って、永倉さんと共に部屋を出ていく原田さん。
私たち二人のみが残された一室。
シーンとした静けさだけがやけに気になる。