「解熱剤だ。

 微熱程度なら、熱が出てても問題ないが、
 今の状態じゃ、体を起こしているだけでも辛いだろう。
 この後も、動くなら飲んでいけ」


っとは言っても、器の中に入った茶色の液体は私も飲む気にならない。


っと同情の眼差しで、敬里に視線を向けるものの、
前に私が高熱を出したときに、丞にもそんな風に薬を飲まされたことを思い出した。


あの時は、何度も咽ながら飲んだんだよね。
渋くてこの世のものとは思えない飲み物で……。
で……気が付いたら馬の上で体は揺られて、
丞が「花桜ちゃん、起きたか?少しは体、楽になったか?」っと優しく話しかけてくれた……。


あっ……。
ちゃんと私の中に、丞が今も生きてる。


そっと胸の前に手を当てて、そして丞がくれた簪にそっと手を伸ばす。


そんな時、誰かが咽る音がして私は現実へと意識を向ける。

そこには覚悟を決めて一気に飲んだらしい、
敬里が豪快に咽こんでた。

「マズっ。
 だから嫌いなんですよ」

なんてこんな時まで、沖田さんの口調のまま土方さんを睨みつけてる。


そんな敬里を見ながら、今いる敬里が、私の知る敬里じゃなくて沖田総司になっていくようで……。


「ほらよっ、後はこいつもだ。
 葛根湯くらい、持っていけ。
 こっちは体を温める」


っと思いがけず、私の居る世界でも聞いたことのある薬の名前に安堵する。
それと同時に、その前に飲んでた薬を知りたくなった。

もしかしたら私も丞に飲まされたかもしれない薬……。

「土方さん、今、沖田さんに飲ませた薬は?」

「あぁ、これかっ」

そう言って土方さんが懐の袋から取り出して、見せてもらった現物を見て私は固まった。

「さっき総司に飲ませたのは、地竜【じりゅう】」

土方さんは、地竜って言うけど、そこにいるのは、どう見てもミミズにしか見えないわけで……。

「えっ、あっ……あの、ミミズ……」

「お前は地竜も知らないのか。
 ミミズの内臓を取り出して乾燥させたものだよ」

さらりと告げられた衝撃。

そんな言葉を聞いた敬里も、流石にショックだったのか、器に白湯を注ぎなおして、
口直しのように白湯を飲み干してた。


「さてっ、俺はかっちゃんの傍に戻るよ。
 ちと、思うところもある。もう少し、人手が欲しいと思ってな」

「人手と言うと……噂に聞く、菜葉隊でしょうか?」

土方さんの会話に、さらりと横から菜葉隊と言う名の私の知らない部隊名を口にする斎藤さん。

「ねぇ、舞。菜葉隊って何?」

二人の会話を邪魔しないように、舞の傍に行って訪ねると、
舞は、菜葉色の羽織を着用してる旗本集団で結成された今の神奈川の部隊だと教えてくれた。


そして翌日。
病に倒れた設定の総司と看病する私たちを残した一行は出発し、
その直後から馬を用意して、私たちは一足先に甲府城に向けて動き始めた。


敬里の体を気遣いながらも、「大丈夫」だと言い張るのをいいことに、
走り続けて到着した甲府城。

だけどそこには、すでに新政府軍らしき人影が入城していた。


「止まれ。
 別動隊の役割はここまでだ。

 もう少し俺が早く隊を離れて、甲府に入城出来ていたら、
 城を手に入れるのは容易かった」っと悔しそうに声を絞り出す斎藤さん。


「えっ?」

「甲府城は敵の手に落ちてしまったの。
 この場所をもともと守っていたのは、幕府方の人間。

 だから私たちが早く辿り着いていたら、この城を手に入れた上で、城から敵を迎え撃てた。
 だけど……もう、この城は敵の手に落ちてるってこと」