ずっと可愛がってきた孫。

その孫が突然消えて、孫として存在してきた別の存在が、孫の名を語り、
孫のかわりに現代に存在する。



それってどんな気持ちなんだろう。

想像するだけで、胸が苦しくなる。
だけど、花桜のお祖父さんはそんな素振りを見せずに、
総司のことも大切に見守ってくれてる。


そんな器の大きさに感服せずにはいられない。



「だから……山崎さんの時も、この場所へ」

「そうじゃな。
 鏡が山崎君が亡くなって、水葬で弔われるシーンを映し出しとった頃じゃ。

 ばぁさんが、花桜の大切な人が来る気がすると」

「その言葉で、来られたんですか?」

「着替えは?」

「着替えは……ばぁーさんが、持たせてくれたんじゃよ。
 敬里の病院に持っていく、着替えじゃったがな」



そう言って、花桜のお祖父さんは答えると真っすぐに手術室のランプを見つめた。


「もう少しかかるんでしょうか?」

「そうだな。
 瑠花ちゃんや、敬里はどうだった?
 行ってくれたんだろ」


その言葉に力なく頷く。



総司には会いに行った。

元気そうにしてたのに、幕末の話を求められて話したとたんに、
急に発作を起こした。

病室に鳴り響いたアラームが耳から離れない。



「瑠花ちゃん?」

「あっ、えっと……。
 少し幕末の時間のことを求められて話したんです。
 そしたら発作を起こしてしまって……」

「そうか……。そうだな。
 わしらでも見るのが辛いんだ。
 あやつはもっと辛いな。瑠花ちゃんも無理しなさんな。

 さぁ、今日はもう遅い。
 送っていこう」



そう言うと花桜のお祖父さんはゆっくりとソファーから立ち上がる。

私も後を追いかけるように立ち上がって一緒に歩いていく。
救急の玄関へと戻って受付で連絡先と共に帰る旨を伝えて、
電話で呼びよせたタクシーに乗り込んで、家まで送ってもらった。



タクシーに乗る前に電話をしていたからか、
ママが家の前でずっと立って待っててくれたみたいだった。



「ママ、ただいま。
 遅くなってごめんなさい」


タクシーを降りて、そう告げるとママは、
花桜のお祖父さんにいつもお世話になっています的な挨拶をして、
私と一緒にお祖父さんを乗せたままのタクシーが過ぎていくのを見送った。


家の中に入ると、パパは仕事みたいで姿がなかった。