幕末にあのままいたら何もできなくて、
総司がただ弱っていくことを待つしか出来なかった。

だけど今、私は大好きな総司を敬里としてこの世界に迎え入れられて、
総司は現代の病院で入院して、結核治療を続けてる。


だから……総司は敬里として、この世界で生き抜いていく。
私たちが幕末を生き続けたみたいに。
そんな風に思ってる。



「そうか……敬里君が結核で入院しているのか……。

 結核には感染・発症・排菌の三段階がある。
 敬里君は入院しているって言うことは、人にうつす可能性がある排菌と言う段階だと思われるね。

 抗結核薬を何種類も決まった時間に飲みながら、今頃、副作用と闘っているだろうね。
 ただその薬は、確実に飲みきらないといけない」

「うん。決められた時間に薬飲んで記録付けてるって。
 熱が出たり、発疹が出たり、でも……頑張ってるよ」

「そうだね。一日も早く治るといいね。
 瑠花のことも、敬里君の担当医にお願いしておくよ。
 接触者検診も受けるんだよ」 
 
「うん」


敬里が総司ってところまでは伝えられないけど、
少しだけ秘密を吐き出せて、いざって言う時の強い味方が出来たみたいで安心した。


「でも、パパ感染する可能性があるところに、瑠花ちゃんが行ってるなんて危ないわ。
 ママ、てっきり花桜ちゃんのお宅にいってるとばかり思ってたから」

「瑠花、思う様にしなさい。
 大切なものの為に、割く時間も人生においては必要だよ。

 回り道も、迷い道もしてもいい。
 だけど自分の納得が行くように歩いていきなさい。
 大人になった時に、その時代の自分が誇れるように……。

 さぁ、ご飯を食べよう。ママ、いいかい?」


パパの言葉に、ママは今も少し不服そうな表情をしながら晩御飯の準備をしてくれてる。
私はそんなママの傍に立って、無言で手伝いながら心の中で「ごめんなさい」っと呟いた。


ごめんなさい……だけどこれだけは譲れない。
総司は私にとって大切な存在で、
今からこの世界で生きる総司には私たちが幕末で体験した以上に大変な時間が過ぎていくと思うから。



テーブルに用意されたのは、ハンバーグシチューとサラダとご飯。
久しぶりに三人でテーブルを囲んで、手を合わせると私たちは食事を楽しんだ。


食事の後、洗い物をしてるママの家事をBGMにパパとリビングのソファーへと腰かける。
パパがふいにつけたテレビ。

その画面の中では[幕末の謎。旧幕府軍に勝機はなかったのか?鳥羽伏見を学ぶ]そんなスペシャル番組が、
コメンテーターの人たちと共に繰り広げられてた。


「このチャンネルにしておこう。
 瑠花は昔から、この手の番組が好きだったね」

パパの言葉に頷きながら、じっと画面を見つめながら、鏡が映した花桜・舞の体験した鳥羽伏見を思い出してた。


あのまま、幕末に居たら私も生身で体験したかもしれない鳥羽伏見の戦い。
花桜はそこで大切な人は、花桜をかばって負傷して……その負傷がもとで化膿して命を落としたと言われてる。