「ただいま。パパ、ママ」

リビングの扉を開いて、二人の姿を確認するとお辞儀をして挨拶をする。


「お帰りなさい、瑠花ちゃん。
 パパと待っていたのよ。
 早くご飯にしましょう」

ママの声を聴いて私は二階の自室へと駆けあがって、肩にかけていた鞄を机の上に置いた。

私の部屋に本棚には、大好きな幕末の時代を綴った物語が沢山ある。
新選組を主人公に描かれた物語も、永倉さんが語り伝えたとされてる文庫本も並べられてる。

私はそんな本たちの背表紙にそっと指先を触れたまま「花桜、舞、どうかご無事で」と静かに目を閉じて祈りを捧げた。


「瑠花ちゃん、はやく降りてらっしゃい」


階下から催促するママの声に「はーい」と返事をして、私は慌てて一階のリビングへと顔を出すと、
パパはダイニングのテーブルへと移動していた。



「瑠花、今日も花桜ちゃんのところに行ってたのかい?」

「そう」

「花桜ちゃんのところだと安心だけど、瑠花ちゃん夏休みの宿題は終わってるの?」

「終わってるよ。夏休みが始まる前に終わらせたから安心してママ。
 それより今日、パパ帰ってこれたんだね。
 お仕事、忙しいんじゃなかったの?」

「あぁ、瑠花に聞きたかったことがあったんだよ。
 一週間くらい前に、ママから瑠花が具合が悪そうだと連絡があった。
 だけど瑠花はパパのところには来なかったね。
 
 瑠花が元気なんだったらいいよ。
 だがパパのお友達が、病院内で瑠花の姿を見たって聞いてね。

瑠花の傍には、年輩の男性が一緒だったと」

「まぁ、それは本当なの?瑠花ちゃん」


パパの言葉にママも手を止めて、私の方に視線が集まる。


「今、パパの病院に敬里が入院してるの。
 一緒に居たのは、花桜と敬里のお祖父ちゃんだから、怪しい人じゃないよ」


敬里の名前は、私の両親も昔から知ってる。

本当は敬里じゃなくて、そこに居るのは総司だけど……、
そんな夢物語、誰にも信じてもらえない。


「病院には敬里君のお見舞いに?」

「そう。
 だから私が具合が悪いわけでもないし、怪しい人と一緒に出掛けてるわけでもないから安心して。

でもばれちゃったら隠さなくてもいいよね。
 堂々とパパを頼れるかな。

 敬里、結核が見つかって入院してるの。
 パパ、結核ってなおるんだよね。

 昔は死病だった。だけど今は、なおるんだよね」



真っすぐに見据えて問いかける。