「島田さん、土方さんは島田さんに自分のように死んでほしい、
 後に続いて欲しいなんて思ってないと思う。

 土方さんは、若い人の命を散らせないために、
 その命の使い方を考えて来たの。

 だから土方歳三っていうかけがえのない大きな存在の死を、
 無駄死ににさせないで。


 島田さんたち、残された隊士の皆は、
 ちゃんと土方さんたちが見れなかった未来を……受け継ぐために存在してる。

 
 斎藤さんは知ってるけど、私はね、
 長州にも大切な人がいたの。

 もうその人は亡くなってこの世にはいないけど、
 今の私はその人の命と一緒に生きてる。


 そして晋兄が……高杉晋作が見れなかった世界を
 私が一緒に見ながら過ごしてるの。

 だから……これ以上、
 誰一人として失う命がないように……、
 島田さんたちには、残されたものの道しるべになって欲しいの。

 新選組がずっと大切にし続けた誠をその心に抱き続けて」




私は吐き出すように告げていた。



それは紛れもない私の本音。

そして舞ちゃんがあの時、
味わうことが出来なかった世界だと思えるから。




私はゆっくりとその場から立ち上がって、
花桜と土方さんが待つ場所へと移動する。




最後の仕事が待ってる。




「舞……」

「大丈夫。
 これは私が自分で決めた未来だから。

 斎藤さん……、
 土方さんをお願いね」



そう告げると斎藤さんは静かに頷いた。





「花桜……」



私は土方さんの傍に居る花桜の背中に、
そっと声をかける。



「……舞……」


花桜は、そっと顔を上げて私を見つめる。



「ねぇ……どうしてなんだろう。

 銃弾を腹部に受けて、
 あんなに沢山の血を流してしたのに、
 痛かったはずなのに、
 土方さん、笑ってるように見えるの……」


そう言って、花桜は涙を流しながらも、
笑って自分を納得させようとしてる。


「……土方さん、ちゃんと自分で自分の命の使い道を選んで、
 納得して旅立つ準備をしてきたから、
 こんな風に笑ってその時を迎えられたのかな?

 そう感じるからこそ、泣いちゃいけないって、
 ちゃんと笑って見送らなきゃって思うのに、
 涙が止まらないの……」



花桜はそう言って瞳からいくつもの雫を
地面に落としながら、土方さんの手を衣服越しに触れる。




だけど……私には、
花桜が向こうに帰る時間が近づいているのがわかる。



悲しみに呼応するかのように、
近づいてくる遠雷。



そして近づいてくる雨雲の匂。

時折、
何処からともなく花桜の名を呼び続ける懐かしい声。




「花桜、少し話があるの。
 土方さんのことは、斎藤さんや新選組の仲間たちに任せよう」



そう言って切り出すと、私は花桜を支えながら立ち上がらせた。



鳴神さまは確実に近づいてきて、
別れの時を教えてくれる。



私は花桜の体を支えながら、
ずっと顔が肌身離さず持っていた巾着袋を引き寄せる。


そして山波家の家宝、沖影を。




戸惑ってる花桜を引っ張るように、
私は人影が少ないところへと連れていく。





「……舞……、何?」

「花桜、ちゃんと持って」



そう言って沖影を花桜の手にしっかりと握らせる。

そして巾着から、花桜が遠い未来からこの世界に持ってきた、
電源の切れた、電波の入らない携帯電話を取り出す。


「何?
 舞、何やってるの」


その電話を花桜の手に握らせた時、
私はゆっくりと、入ることのない電源ボタンを指で押した。




電子音が木霊した時、
瑠花が花桜を呼ぶ声と共に轟いた。




「舞、ちゃんと舞も私の手を取って」



狭間に吸い込まれていく花桜が、
必死に私へと手を伸ばす。


そんな花桜に私はゆっくりと告げた。



「花桜、今まで有難う。
 瑠花に宜しく。

 私は敬里の傍で生きていくから」



笑うように叫んだ。




その声を受け止めてくれたように
真っ黒な空間は消えてなくなった。





落雷の後には、
嘘みたいな青空が広がっていた。






「……舞……」




傍で見守ってくれていた、
斎藤さんが私の名を呼ぶ。