新選組?
新政府軍?



どちらかなんてわからないけど、
後少しであの場所に辿り着けるんだ。



花桜と約束したその場所に。




私は覚悟を決めて、
護身用に身に着けている刀へと
ゆっくりと手を伸ばす。



そして飛び出した瞬間、
誰かに背後から口元を抑えられたまま、
茂みへと引きづりこまれた。






『誰かいたか?』

『いやっ、動物が茂みに飛び込んだんだろう。
 向こうを見守ろう』




そんな声と共に、遠ざかっていく気配。



足音が遠ざかっていくのに、
ほっとしている私が居た。




この手が助けてくれなかったら、
今頃、私は撃たれていたかもしれない。


私が撃たれたら、
花桜を向こうに送り戻すことも出来ない。



……助かった……。


「バカかっ」


そう思った私の頭上に降り注いだ懐かしい声。


「……斎藤さん……」




どうして、この場所に?


舞ちゃんの記憶では貴方は、
この場所に居ないでしょ……。



そんな疑問が押し寄せてくる。



「黙ってお前が会津から姿を消した後、
 暫くアイツらと一緒にいたが少し抜け出した。

 多分、舞がそうさせたんだろうな」



そう言って斎藤さんが、
懐かしそうに紡ぐ舞が私ではなく、
もう一人の舞ちゃんだと言うことは知ってる。


「舞、行くぞ。
 山波のもとへ急ぐんだろう?」



次の瞬間、再び紡がれた舞は、
舞ちゃんの時と明らかにイントネーションが違っていて。


斎藤さんが導くその手を掴んで、
私は弁天台場の花桜たちのもとへと辿り着いた。



『山口さん』

『斎藤さん』



突然現れた存在に、
それぞれの名で驚きの声を上げる兵士たち。



「島田、副長は?」


姿を見つけた昔なじみの隊士に、
声をかけると島田さんは悔しそうに目を伏せた。



「副長は敵に銃弾を受けながら、
 山波隊士と共に、この場所へ辿り着き、
 我らの為に、指揮をとってくださいました。

 四方を囲まれておりましたが、
 敵の一軍がひき、皆が安堵した時、
 崩れるように息を引き取りました。


 副長は山波隊士と共に奥におられます。

 我らは明日、新政府軍に降伏をする。
 無駄死にするなと、先ほど、永井様から伝達があった。


 ですが……俺は悔しいです。
 新選組は……俺たちはまだ戦えるんです」
 



島田さんは何度も握り拳を岩場に叩きつけながら、
涙を流し続けた。