今、鏡が映し出す歴史が伝え聞く歴史の中のどれかなんてわからないけど、
確実に言えるのは花桜の傍で土方さんの体が、
馬上から崩れ落ちたと言うこと。


それは紛れもない現実。



花桜は土方さんの傍に駆け寄って何かを必死にしているみたいだけど、
何をしているかまでは花桜の体が影になって鏡は詳しく映し出してくれない。


多分、銃創だと思われる患部を必死になって確認しながら、
止血しようとしているのかもしれない。


そしてそんな花桜と土方さんをその場所に残して、
舞はわざと新政府軍の意識を自分の引き付けようとしているかのように、
馬を走らせ出した。




『花桜、ちゃんと帰ってきてよ』





確実に迫りくるその瞬間が近づいている気がして、
鏡を見ていても落ち着かない私が居た。




「お祖父さま、一つ確認がございます。

 私は幕末から戻って目覚めた時、
 自室のベッドにいました。

 ですが……花桜は同じようにはならない気がするのです。
 花桜がこの世界に戻る時、要になる場所は何処だと思われますか?」




鏡を凝視しているお祖父さまの背に問いかける。




「……瑠花さん……」


私の問いかけにお祖父さまは顔を上げて視線を合わせ、
私が感じていた場所と同じ場所を告げた。



その場所は総司と山崎さんを花桜のお祖父さまが見つけた神社。



あの場所だけが唯一、花桜たちの住む世界と時間に繋がっているような、
そんな気がした。


私は鏡の部屋から立ち上がる。



「瑠花さん、行くのかね」


お祖父さまの声に私はゆっくりと頷く。



「花桜を必ず連れ戻したいので」


そう言うと部屋の外で控えていた山崎さんが姿をみせる。






そんな仕草に驚きを隠せない。





いつも花桜の傍につかず離れずで、
唐突に姿をみせた山崎さん。




あの頃の記憶は今はなくて、
口調すらあの頃の面影がないはずなのに、
何故か重なって見える。



「瑠花さん、私もお供させてください。

 何故だかわかりませんが、
 私はその場所に行くべき必要があるような気がするのです」



そう告げる山崎さんに、私は頷いた。




荷物一式は花桜の家に残して、
携帯電話だけを握りしめて私は山崎さんと神社へと向かう。


神社の遙上に広がる空は雲一つない真っ青な空間。
木々がゆらめく羽音が、風の訪れを教えてくれる。




私はポケットにしまい込んだ戻って来た花桜の身に何かあった時に、
すぐにパパに連絡をとれるように持ってきた携帯電話を、
お社に続く石段へとそっと置くと、
花桜と舞のことを祈りながら裸足になってお百度を踏み始める。




神様、花桜をどうか連れ戻してください。

そして……、
今、その場所で留まる運命を選んだ舞にご加護を。




何度も何度も、石から石へとまわりながらお社で手を合わせて祈り続ける。




そんな私の姿を見守っていただけの山崎さんも、
何を祈りながら過ごしているのかはわからないけど、
私の隣でお百度を踏み始めた。